マンガ

マンガアシスタントの残業代未払い問題についての解決策を提示する

2018年早々に、インターネット(の一部)で話題になったマンガアシスタントの残業代未払い問題について、私が起業してなんとかしたい部分と重なっているので、書いておこうと思います。

マンガアシスタントの残業代未払い問題は、マンガ業界の歪みがもたらしている

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さて、下記のエントリが発端で、マンガアシスタントの残業代未払い問題が、インターネットで話題となりました。

要約すると、

三田紀房先生のもとで約12年間アシスタントをしていたカクイシシュンスケ先生が、
「三田先生の職場は、業界の水準に比べてきっちりしていた」と前置きしつつ、

上記の記事で、三田先生の職場では「残業は禁止している」と紹介されていることに対して、「実際には週一で残業をしたし、その時の残業代は未払いでしょう」という反論です。

本件は、マンガ分野での起業を目指している私にとって、見過ごせないです。

該当記事や、tweet等からカクイシ先生は、

  • マンガ家が出版社に搾取されていると言うなら、アシスタントだってマンガ家に搾取されている側面がある。」
  • 「マンガを制作するプロフェッショナルであるという視点から言うと、マンガ家とアシスタントは連帯して就業環境の改善に取り組めるはずであるが、実際は出版社→マンガ家に対する搾取を再生産している構図になっている。」
  • 「アシスタントより立場の強いマンガ家が労基法を守り、より良い就業環境を作るように取り組むべきだ。」

ということをの言いたいのではないかと、私は思っています。

なんというか、マンガ業界の歪みをを感じずにはいられないですね。。。

三田先生は頑張っていると思う

著書やその他のインタビュー等を見る限りの印象ですが、元々百貨店出身なこともあって、漫画界の常識に囚われず、一般的な就業環境に則った形で、勤務体系や業務の流れを整えているように思えます。

残業代に不払いがあったとすれば、それは確かに是正すべきですが、
(ただ、私も小売業出身なので、三田先生が居た頃の百貨店も、繁忙期は同じようにしていたのではないかと思ってしまう)、労働環境改善について業界のトップランナーであると思っております。

2018/1/17追記

三田先生が、カクイシ先生ならび他のスタッフに、未払い分の残業代を支払うこととなったようです。

カクイシ先生のブログ

三田先生のブログ

そもそもマンガ家の週刊連載って無理があるんじゃない?

マンガ家やアシスタントの労働がどうしても過酷になってしまうことの根本にあるのは、やはり週刊連載という無理が常態化していることにあるんじゃないでしょうか。

上記の記事を見ると、睡眠時間が3-6時間でそれ以外の時間はほぼ休みなく毎日執筆している様子が見て取れます。

ところで、労務管理って、それなりに時間を使うんですが、その時間はどこに……?って感じです。

この時間配分が事実だとすると、アシスタントに残業させずに仕事をするなんて現実的ではないように思えます。

マンガ家の待遇を改善しなければならない

また、マンガ家の待遇も高いとは言えず、新人の原稿料は、1万円を越えることは少ないようです。

仮に、アシスタントの人数が4人で、全員を週4日・9:00-18:00の8時間(休憩1時間)・時給1000円で雇用したとして、

アシスタント分人件費は下記となります。

4(人)×4(週)×4(日)×8(時間)×1,000(時給)=¥512,000

なお、残業が発生すると、時給¥1,250(22時-5時は¥1,500)の費用となります。

一方で、原稿料は、毎週19P執筆として、

原稿料10,000の場合

10,000(原稿料) × 19(ページ数) × 4 (週)=¥760,000

差し引き 760,000 – 512,000 = ¥248,000

原稿料8,000の場合

8,000(原稿料) × 19 (ページ数)× 4(週) =608,000

差し引き 608,000 – 512,000= ¥96,000

ここから諸経費(仕事場の家賃・光熱費・スクリーントーンなどの消耗品費)を引いた残りが、マンガ家の取り分になります。

これ、マンガ家生活できねえな。。。

コミックスが出ないとマンガ家は生活できないということがこの試算でも浮き彫りになります。

これに残業代や社会保険等を支払ったら、一円も残らないどころか赤字になりますね。

マンガ家が食っていくためには、

  1. 確実に単行本を出すか(人気が出るかどうかなんて不確定)
  2. アシスタントの数・労働時間を減らすか(単行本を出すための人気に影響するかも?)
  3. アシスタントの人件費を搾取するか(しばしば起きているが、本当は労基法違反)

上記のいずれかを取るしかないです。

ここをなんとかするには、もっと原稿料を高くしないとダメでしょう。

最低でも原稿料を¥15,000程度に設定し、かつアシスタントの雇用を3人程度に抑えれば、社保完備・残業代支払いありで、マンガ家とアシスタントの両方の待遇を維持できると思われます。

しかし、次はこのコストを出版社がどのように負担するのかという問題が発生します。

仮に、マンガ家に支払うお金の中からやりくりするとしたら、それは人気作家からの所得移転にほかなりません。

まだ実績のないマンガ家に対して、それを行うメリットを出版社が見いだせるのかは疑問があります。

アシスタントは少なくとも非正規社員として雇用しなければならない

また、佐藤秀峰先生が指摘するように、

労働者は個人や会社の都合で正当な理由なく一方的に解雇することができません。「打ち切りなったから解散するわ」は正当な理由になりませんよ。突然の打ち切りでスタッフを路頭に迷わせることがあってはいけません。

というような問題もあります。

つまり、アシスタントを上記の問題をクリアし、社保完備・残業代の支払いありの待遇で雇用するには、少なくとも非正規社員として雇用しなければならないのではないでしょうか。そして、これはマンガ家という個人事業主が行うには荷が重いと思います。

むしろ、出版社が非正規社員として雇用し、労務管理を行い、出版社のマネジメントのもと複数のマンガ家へ派遣していく形式を取る(並行して新人マンガ家としてデビューするための力量をつけさせる)ことが、この構造的な問題を解決するには良い方法と思われます。

ただ、現在の出版不況を前提とすると、マンガの売上のパイを増やせないのであれば、この方法取る場合でも、既存のマンガ家(特に人気作家)の分け前を減らさないと、そのための費用は捻出できないでしょう。

スタークリエイツが目指すもの

結局のところ、マンガ家やアシスタントの待遇を改善・安定化するためには、ビジネスとして安定した売上を立てる必要があるという、当たり前の結論にたどり着きます。

私は、「スタークリエイツ」という屋号で活動を開始していますが、そこで目指しているのは、マンガ家のスキルを現金化できるビジネスの裾野を広げるということです。

マンガ業界に閉塞感があるのは、ビジネスとしての展開方法を、商業誌の出版しかないと視野を狭めていることに原因があるのではないでしょうか?

マンガの長所は、「言語化の難しいものも、わかりやすく多くの人に非同期に伝えることができる」ということだと思っています。そして、これはもっとビジネスに活用されて良いと信じています。

人気に左右されないビジネス利用という収益の柱がある状態で、人気商売としてのマンガを制作するというモデルにおいては、ゲーム会社やデザイン会社に雇用されているイラストレーターのように、比較的安定した待遇でマンガ家やアシスタントを雇用することは十分可能だと思っています。

おわりに

この文章を書くかどうかは、随分迷いました。

私自身はまだ一歩を踏み出したばかりです。

本当は、マンガを安定したビジネスとして成立させるということを実現してからこのようなことを言うべきなのかもしれません。

それでも、本エントリをきっかけに、私よりも先にそれを実現する人が出るのであれば、そのほうが良いとも思います。

アシスタントの残業代不払いにおける一連のやりとりの中で、うすた京介先生のツイートに、「そもそも漫画家なんてまともな仕事じゃない」という一節がありました。(該当のツイートは削除済)

これが、現実なんだと思います。

でも、私の夢は、「車を作る仕事が普通の就職先であるように、マンガを作る仕事も普通の就職先」となる世の中を作ることです。

それが、そう遠くない未来に訪れるように、邁進したいと思います。

以上。おしまいっ。