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【書評】ここからが新たな冒険の船出だ!|『 ONE PIECE 第61巻 』/尾田 栄一郎 (著)

ONE PIECE 61 (ジャンプコミックス)
sawasawaおすすめ度 ☆☆☆
◆書籍紹介◆
「頂上決戦」から2年。
2年間の修行を経て、再びシャボンティ諸島に集結した麦わら一味。
一味の成長、そしてビジュアルの変化に注目の61巻。

61巻冊目の再出発

手に取った瞬間から目に飛び込んでくる
第1巻と同じ構図のカバーイラストをはじめ、

初期からのファンが思わずニヤリとする場面が
随所に散りばめられている。

こういうセルフパロディー的な要素は、
本当に長期の連載を続けてきたマンガにのみ
許された特権だなーとしみじみ感じる。

尾田先生がとても楽しんで描いていることが
画面から本当によく伝わってくる。
特に重い展開がここ数巻続いていたので、
その分気持ちよく読めるのではないか。
 

「サバイバルの海 超新星編」と「最後の海 新世界編」

麦わらの一味が2年の修行に励んでいる間、
本誌でも1ヶ月間の休載期間があった。

その頃に取ってつけたように登場した
「サバイバルの海 超新星編」と「最後の海 新世界編」というキャッチ。

どう考えても作者のセンスではないと思っていただけど、
コミックスでは、その辺についてのやり取りにも触れている。
その辺のちょっとした裏事情を隠し立てしないのは、
尾田先生の懐の深さだなぁ。
 

一番伝えなければならないこと

ONE PIECEは、バトルマンガとしては珍しく
修行で味方が強くなるという描写を明確にしてこなかった。

異例とも言える今回の2年の修行は
麦わらの一味を最高クラスの海賊と渡り合えるようにするための
布石と位置づけることができる。

だからこそ、2年も修行して、麦わら一味は「どのくらい強くなったのか」
ということが読者の最大の関心であるし、
描写も緻密に行うべき点であるのは間違いない。
 

「どのくらい強くなったのか」を表現する

だが、ONE PIECEは元々その辺りの描写が得意ではない。
「アラバスタ編のサンジ」と「空島編のサンジ」では
どちらが強いのかという問いはおろか、同じルフィの技である
「ゴムゴムのバズーカー」と「ゴムゴムのキャノン」
ではどちらが強いのかさえも、厳密には不明なのだ。

そもそも、強さのインフレが際限なく起きるバトルマンガにおいては、
キャラクターが「どのくらい強くなったのか」ということを
読者に伝えるのは案外難しいのである。
 

ドラゴンボールを例にすると、
孫悟空のかめはめ波は、車を壊す程度の威力から
物語中盤では惑星を破壊する程の威力まで強くなる。

しかし、壊せる対象が惑星になってしまうと、
今度はそれ以上に壊すのが難しいものがなくなってしまう。
「何を壊せるのか」ということで
威力を表現することはできなくなるのだ。

そうなると、今度は他の表現で強さの説明が必要となる。

超サイヤ人3のかめはめ波だから強い。
フュージョンして放つかめはめ波だから強い。
魔人ブウを粉々にするほどのかめはめ波だから強い。

といった具合でだ。

これらの説明がきちんとなされるからこそ、
矛盾を感じずに物語の先を読み進められるのである。
 

尾田先生のミステイク

では、実際はどのような形でストーリーが展開したのか。

新たな旅立ちを迎える麦わら一味
       
      VS

それを阻止しようとする海軍

という非常に分かりやすい構図である上に
「かつて敗北を喫した相手との戦い」という成長を示すギミックを
ふんだんに使う舞台は整っていた。

しかし、ここで作者がミステイクを犯してしまう。

麦わらの一味がそれぞれの2年間でともに過ごした味方が
その舞台に上がってしまったのである。

彼らが、海軍を迎え撃ち、それを旅立ちのエールと代えてしまったことで、
麦わらの一味の見せ場はほとんどなくなってしまった。

それがために、次に訪れる魚人島で、
「どのくらい強くなったのか」を説明しなければならなくなった。

だが、魚人島といえば回収するべき伏線が多いポイント。
その上に新たな設定・新たなキャラクターの説明も必要となり。
ストーリーのテンポが悪くなってしまうのも無理はない。

休載前と比較して勢いがなくなってきているのは、
2年間の修行の成果を、連載再開から20週経っても示しきれていない
ことも少なからず影響しているとみて間違いない。
 
 
ONE PIECE 61 (ジャンプコミックス)
ONE PIECE 61 (ジャンプコミックス)